友達の話に、こんなことがありました。
とある部署の30代前半の男性が、ぼやいていたと言うのです。
「俺には突出した能力がない」と。
彼はシステムを作る部署に所属し、「野球やってましたよね?」というがっちりしたお尻を持ち、背が高く、人当たりがよく、朝から晩まで働いてもへこたれない体力の持ち主です。もちろん、能力も高い。
こう書いただけでももう、「めちゃめちゃ体力があって、コミュニケーション能力が高い人」と言えるのですけど、本人はそれが自分の突出した能力だということに、どうやら気付いていないようです。
こんな風に、「自分には何もない」と言う人ほど、自分のことが見えていません。これはよくあることですよね。
彼はこうも言っていたようです。
「特にこれといった趣味もなく、ものすごく好きな分野もないし」
いやいや、あなた野球やってますよね……? とこちらは思うのですけど。やっぱり本人は自分のすごい部分に気付いていないのです。
さらに彼は、「ものすごく好きな分野があれば」と思っている節がありますよね。そこで私は自分を振り返ったのです。
私は今でこそ「文章プロデューサー」という肩書きに落ち着いていますが、それまではコロコロ肩書きを変えていました。唯一いつも入っていた言葉が「文章」であって、この軸はずーっと変わっていません。
だけど私は文章がものすごく好きかと言ったら「?」だし、好きだからこの仕事を始めたわけでもないし、ただ師匠が私のこの能力に気付いてくれたから、それを仕事にしただけです。
そして、一つの軸でもって仕事を続けていくと、その能力がどんどん磨かれていくのを感じました。もはやこの分野においては無意識でいろんなことがわかってしまうし、文章を見ただけでその人の状況がわかるという特殊能力まで手に入りました。今はこの仕事が気に入っていますが、ものすごく好きかと問われれば、「うーん」となってしまうのです。
ここまではいいのですが、このように「何か突出した能力」が身についてくると、困ったことが起こるのです。一体何だと思いますか?
私の場合、例えば20代後半に勤めていた当時のヤマト運輸で、セールスドライバーではない一般事務職が正社員の試験に通ることは難しいと言われていました。だけど私は絶対に受かってやると思っていました。だって準社員より給料が高いのに、休みが月に2日も多いのですから。何か一つやり遂げて正社員になるぜ!と意気込んでいまいた。
そこで私は、当時むちゃくちゃ得意だったEXCEL(エクセル)という表計算ソフト(みんな知ってるかw)を使って、傭車(自社以外の車のこと)の配車管理システムを作り上げました。その表は、車番を入れるだけで会社ごとの台数や金額がパッと出るもので、その部署では画期的なものでした。上司にすごく褒められました。
それまでは(もう20年近く前のことですから)なんと会社ごとの用紙に日付や車番や金額を書き、それぞれの会社の担当者に膝詰め談判をするという、とてつもなく時間と労力がかかる方法で金額合わせをしていたのです。私の前任者はどっちかというと頭脳派より体力勝負な人でしたし、そんな彼が行う手作業でしたから、計算が全然合わないのです。だからヤマト側が「ごめん、これ来月分にまわして」などと無理難題を押し付けることが恒例になっていました。傭車にとってはたまったもんじゃないですよね。
私が作ったその配車管理システムが社員登用の担当者の目に留まり、私は見事正社員になることができました。嬉しかった。だけどエクセルは得意だったし、数字の入力も得意だし、勤怠管理も普通にできていたし、事務作業も得意だったので、当然かなとも思っていました。
それがですよ!そんな私がですよ!
今やエクセルでそんな表など作れるはずもなく、確定申告だってわからないから専門の人にお願いしているし、名簿管理もできなくなり、日付や曜日を書き間違うなんてもはや当たり前。
文章添削時は細かいことに気付くのに、日付や数字の間違いにはとんと気付かない。なんと私は、事務仕事が苦手になってしまったのです。
要するに、「何か突出した能力が身につくと、それ以外のことがどんどんできなくなる」ということなのです。これにはまいった。本当にまいった。「自分はバカになったのか」などとかなり悩んだ時期がありました。
だけど、自分の周りをよく見るとそんな人ばっかりなのです。ある分野の針は「すごくできる」に振り切られ、違う分野の針は「全然できない」に振り切られる。
「なんだ、私だけじゃないや」と安心しつつ、「このままではまずい。誰かにお願いしよう」と自分に諦めがついたのです。
若干本題からそれましたが、要するに、
・「突出した能力がない」となげく人にも自分では気付かない能力がある
・「突出した能力」が身につくと他の能力がグッと下がる
・「できない部分」を認めて見切りをつけると、人にお願いできるようになる
こんなところでしょうか。
「自分には何か突出した能力がない……」とお悩みのあなた!
あなたにもありますよ!あるんです!
だけど自分では気付けないので、
誰か信用できて尊敬できる人に教えてもらうといいですよ。
ただし!
その能力を磨いていくと、他のことができなくなっていきますからね!
「オールマイティ」でいきたい人には、
突出した能力を磨かないようオススメしたい。
これからの自分の人生、
「突出した能力」でいくのか、
「オールマイティ」でいくのか。
まずはそれを考えるとよいかもしれません。
「オールマイティ」は割と便利ですよ。
「突出した能力」は不便が多いです( ;∀;)